劇場版忍たま乱太郎【第二回スタッフトーク:作画回】のレポートが公開
2/6(木)開催された【第二回スタッフトーク:作画回】のレポートが到着しました
イベントでは藤森雅也監督、新山恵美子さん(キャラクターデザイン)がご登壇
興行収入20億円、観客動員数140万人を突破し、公開から1ヶ月以上が経った今も尚「忍たま」の映画記録を塗り替える大ヒットを更新し続ける本作。この度、第二回スタッフトークが開催されました。スクリーンには、この日のために新山さんが描き上げたという六年生のイラストが投影され、温かい拍手に迎えられながら藤森雅也監督と、七松小平太のパペットを手にした新山恵美子さんが登壇しました。
TVアニメ「忍たま乱太郎」の初代のキャラクターデザイナーである藤森監督と、キャラクターデザインを引き継ぐ形で現在もその役を担っている新山さん。師弟関係とも言える二人の和やかなトークはキャラクターの頭身についてから始まりました。
一年生以外のキャラクターたちの頭身をTVアニメに比べ高くしたことについて、実際のキャラクター設定資料を見ながら藤森監督は「アクションシーンでは、シルエットを立たせやすいのと、座っている芝居でも低くカメラを置いた時に威厳があるように見えるのが良かったなと思います。」と設定画を見ながら説明。新山さんも「格好良く描こうとすると(頭身が)伸びちゃいますよね」と特にアクションシーンなどは設定よりも頭身が伸びていることを明かした。
そして、一年生以外の等身を伸ばしたことで「副産物」として現れた効果として藤森監督は「対比で、は組の生徒たちが(先生たちに比べ)小さくなるので可愛くなるんです。テレビ版だと先生たちの胸下くらいまで身長があるんですが」とし、新山さんも「土井先生が伸びたのかきり丸が縮んだのか…。きりちゃんが本当に可愛い。(監督が描いた)コンテの時点からこの可愛さだったので可愛く描かなければと、監督に激しく同意でした」と藤森監督の絵コンテを大絶賛しました。
前半はアクションシーンのこだわりポイントについてのトークが繰り広げられました。
まず取り上げられたのは冒頭の土井先生と諸泉尊奈門とのアクションシーンのこだわりについて。監督は「今回の映画で、土井先生と天鬼の忍具の使い方を同じにしたいと思っていて。出席簿はいつも同じなんですが、チョークの投げ方は、6コマで3本のチョークを投げろという指示を入れたかな?」と話し、新山さんもこのシーンにはこだわりがあるとして「土井先生は出席簿で戦っているので、ボロボロになっていくんです。綺麗な状態からその状態まで繋げないといけないので、作画のこだわりで、アクションに合わせて出席簿の傷を少しずつ増やしていきました。シーンの前半と後半で作画監督を分けており、私が前半の作画監督を担当したのですが出席簿の傷の量は合わせていかないといけないので、出席簿は(後半のシーン含め)全部やらせてもらいました。傷の密度が増えたり減ったりすると映画として気持ち悪いので、拘りました」という苦労を明かし、藤森監督は「その苦労を全く知らず、ちゃんとしているなと思って見ていました」と新山さんの苦労を労いました。
続いては天鬼VS六年生のアクションシーンについて。このシーンについて藤森監督は「ヒーローものみたいな出撃にしたいと思って。また接近戦が得意な人と距離を置いた戦いが得意な人に分けて全体を動かすというのを『忍たま』でも1回作ってみたいなと思って、やらせていただきました」と語りつつ「TVシリーズではギャグアニメだから<いけどん>とか<ギンギン>で行くのは正しいんだけど、六年生なんだから出来るやつらに決まってる。本作では彼らにも冷静で優秀な側面があるよ、と描かせてもらいました」と明かしました。さらに、普段の「忍たま」らしからぬシーンとしても話題になった六年生の傷についての話題に。新山さんは「設定を書いていて、血の形が都道府県の形に見えないかだけ気になってました」と笑いを誘いながら、カットごとに傷が増えシルエットも変わる善法寺伊作の作画には苦労したと話しました。さらに、血の色について藤森監督は「最初はもう少し鮮やかな色も検討したんですが…」幅広い年齢層のお客さんへの配慮をし、今の色に決定したという裏話も明かされました。
山田先生と卒業生の桜木清右衛門、若王寺勘兵衛のアクションシーンについては「コンテが村野(佑太)くんで、作画は堀内(博之)さん。このシーンはアクション作画監督の関根(昌之)くんとは別の人がやっているんです。堀内さんは理論派で重量感のある動きを描ける方で、このシーンだけでなく天鬼VS六年生のアクションシーンの中盤も手がけてくれています。関根くんと堀内さんはテイストが違うタイプのアクションを描くので、見比べてみると超一流の二人の個性の違いが分かって面白いと思います」と藤森監督ならではのこだわりポイントを披露しました。
さらに、後半の見どころのひとつでもある山田利吉と雑渡昆奈門の戦いについては「ここのアクションシーンは関根くんが1人で担当しているんですが、雑渡の凄さが異次元だというのを見せたくて、雑渡が空中で回転するシーンは無茶振りをしてしまいました。普通の人間はジャンプすると着地するまで軌道は変えられないですが、雑渡は<雑渡ドリル(新山さんが命名)>で回っている間に体幹の軸をずらして軌道を変えてしまう、というのを描いてもらいました。関根くんは僕が何を言っているのか分かっていなかったかもしれないのだけど、ちゃんと描いてくれましたね。よくあんな注文で描いてくれたなと感心しました」と雑渡の人間離れしたアクションの裏側を明かしました。
トークは藤森監督、新山さんのお互いの仕事のお気に入りポイントを披露するコーナーへ。まずは、藤森監督が好きな、新山さんが手がけた作画の紹介からスタート。本作で約770カットを手がけたという新山さんの仕事から、藤森監督が特にお気に入りだという4つのカットが紹介されました。
ひとつめは、忍術学園を出発する土井先生の表情。「今回、頭身変更とともに土井先生の顔を少しすっきりさせている。映画の冒頭で『こんなの土井先生じゃない』と言われたらどうしようという不安が少しだけあったのですが、ものの見事にいつもの優しい土井先生になっていてありがたかったなと思ったカットです」と選んだ理由を話しました。「(展開を知っているからこそ)今生の別れのように描いちゃいけない、やりすぎちゃいけない」と気を遣ったという新山さんに「いい塩梅で、すごく優しい表情だと思います」と声をかけました。
二つめのカットは潮江文次郎が土井先生捜索の折に見せた「しょぼしょぼな顔」。「『言いたくねーんだよ俺も』という感じの表情がいいよね。キャラクターの表情芝居は真っ当にやろうというテーマがあったので大満足、100点満点のカットです」と大絶賛を送りました。「ここは2日くらい悩んで描いたカットですが、コンテから(表情芝居の大切さは)伝わってきたので、ひとりずつの感情を大切にして描けました」と新山さんも当時を振り返りました。
三つ目のカットはきり丸を囲む六年生のカット、特に立花仙蔵の「しょっぱい表情」が注目ポイント。「こういうのが良いんだよね、普段ちょっと見ないしょっぱい表情がすごくいい」と評価。新山さんは「ここは作画監督が谷口(亜希子)さんなんですが、メモに『ここは絶対にコンテの絵のままでやりたい!』と書いてあったので、うんうん、私もそう思うと描いたカットです。藤森さんのコンテが良かったんですよ」と返しました。
四つ目に挙げたのは土井先生の不在に落ち込むきり丸と対峙する山田先生と学園長の優しい表情のカット。監督は「きり丸がとにかく落ち込んでいるんですが、きり丸を見せずに二人の目線の芝居で表現しています。話しかけるときの山田先生の表情がいいんだよね。」と話すと新山さんも「私もコンテを読んだ時に、きり丸が最初に写ってからその後は全然写らないんです。じゃあそれ(きり丸が落ち込んでいる姿)を想像させないといけない。きり丸を大切に思っていることを伝えるために一瞬、安心感を与えてあげるお父さんのような笑顔を入れました」と語りました。
続いて、新山さんがお気に入りの、藤森監督の技が光るシーンを3つ紹介しました。
ひとつ目は雑渡昆奈門と諸泉尊奈門がは組で行う2回目の授業で尊奈門が教壇に立ったシーン。「コンテを読んだ時に本当にびっくりして。1回目の授業は割とオーソドックスなカット割りなのですが、2回目は2人の心情込みのカメラワークが続いていくんですが、同じ授業のシーンをやっているのに、飽きのこないメリハリのあるカット割り。どうやったら雑渡のお尻ごしに撮るカットにしよう、となるんでしょうか」と、藤森監督の大胆なカット割りに驚愕したエピソードを披露。藤森監督は「授業のシーンなんだけど、サスペンスのように作ろうと思って。斜めの構図とか広角とかを使って緊張感を出しました。とにかく画がまとまっていてカッコよければいいんです」と自論を展開。新山さんは「どういう発想なんだろうなとすごくハラハラしました。」と心情を明かされました。
続いて紹介されたのは土井先生の記憶が戻るシーン。「大好きなシーンなんですが、土井先生の目線から山田先生の家、忍術学園との出会い、六年生が一年生だった頃、そしては組に出会って、きり丸との生活がはじまって…という流れがあるなと思うんですが、は組が通り過ぎるワイプだけが早くて、知っているのに目で追えないんですよ。今日はここの原画を見せられたらなと思って…」と、回想シーンで一瞬スクリーンを駆け抜けていくは組の生徒たちの原画を披露し、会場からは待っていましたとばかりに、拍手が送られました。
「これは藤森さんがレイアウトを描き、私が原画を描いたんですが、『きり丸だけ色を落としてください』と指示がありました。実はこの回想シーンには流れがあって、土井先生が六年生の次には組に出会ったが、笑顔のは組の生徒たちの中で、きり丸だけ真顔でこっちを見ていて、土井先生から見てちょっと浮いている子にみえる。ワイプが通過して、夏休み前に影のあるきり丸がいて、そんなきり丸を引っ張り出した後に、きり丸との生活シーンが入っている。個人的には非常に大事なシーンだと思っているんですが、とにかく(流れるスピードが)早い!!私が可愛い可愛いと思いながら描いた顔を見て欲しかった」と熱い気持ちを語りました。
最後に新山さんが上げたのはひっくりかえる稗田八方斎を顎の下から写したカット。藤森監督がレイアウトしたカットで、新山さんは「八方斎って鷲鼻じゃないですか。(下から)煽ると鷲鼻ってどうなるんだろうという話になったのですが、鼻どころではなくてここまでひっくり返されるとエラなんだか首なんだか、何だか分からなくなってしまって。こういう美しくも難しいシーンはアニメーター藤森雅也ではないと描けないカットだったと思っています」と絶賛。藤森監督は「口髭が飛び出ているのが可愛いよね。なかなか機会のない角度で描いていただきありがとうございました」と話しました。
イベントの最後には
新山さん「この映画の作業に入る前に体調を崩していて、復帰してすぐにこの仕事が待っていました。
体力面の心配はあったのですが、藤森さんとの『忍たま』を絶対に一緒にやると。体調の不安が吹き飛ぶくらいにめちゃくちゃ刺激的な仕事をさせてもらいました。私も含め亜細亜堂のスタッフ皆が藤森さんのお人柄や仕事が大好きで、付いて行きたい!という感じなんです。とても楽しい仕事をさせていただきました。沢山の人に愛される作品になって良かったなと思います」藤森監督「皆、大喜びでいろんな思いを込めて、作画だけでなく制作も自分の立場を忘れてギリギリまで粘って最後まで熱心に取り組んでくれました。そんな本作を皆さんに楽しんで頂けて私は本当に嬉しいです。これからも『忍たま乱太郎』をよろしくお願いいたします」
と感謝を述べ、イベントは幕を閉じました。
《イベント概要》
日時: 2月6日(木)20:28〜21:18 ※上映後イベント
場所: 新宿ピカデリー スクリーン1
登壇者(敬称略):藤森雅也(監督)、新山恵美子(キャラクターデザイン)